実績

cotomono

何かを語りかけてくるような
カバンを作るcotomonoさんの作品の中で
イラストレーターのムツロさんと
一緒に作られたカバンに物語を添えました。

cotomono1

彼女のカバン

ドアの呼び鈴が聞こえたとき、僕は深い眠りの中だったから、
それが呼び鈴だと気付くまでに結構時間がかかった。
深夜の呼び鈴なんてそんなものだ。
「ごめん」とドアの向こうから彼女の声がする。
僕はその時、何と答えたのだろう。
玄関のドアを開けると、その隙間に彼女が白い息を吐きながら立っていた。
僕は彼女を部屋に入れると、ストーブに火を付けてキッチンに入りお湯を沸かした。
棚から二つマグカップを選んで
ココアをスプーンで適当にすくって入れる。
彼女はストーブの側に腰を下ろし
手にしていたカバンをゆっくりと置いた。
それは僕が初めて見るカバンだった。
お湯が沸くまでの間、彼女も僕も一言も話さなかった。
ポットがカタカタと白い煙を上げると僕は火を止めた。
そして彼女は言った。

「このカバンの中には宇宙があるの」

僕は二つのマグカップにお湯を注ぎながら、
彼女の言葉を頭の中で繰り返してみた。

「彼女の カバンの 中には 宇宙が ある」

彼女は両方の手のひらをストーブにかざして、
その奥でゆらゆらと揺れている炎を見つめていた。
そこに彼女が見た宇宙が広がっているかのように。
僕は白い湯気が立ち上る二つのマグカップを手に戻ると、
彼女の側に一つ置き、もうひとつを手のひらで抱えたまま
彼女の向かいにあるソファに座り、熱いココアを口に運んだ。
そして彼女の傍に置かれたカバンに目を向けた。
彼女はしばらくストーブの炎を見据えた後、
首だけ僕の方に向けた。
そして彼女は、宇宙の話を始めた。

2015-12-18 | Posted in 実績No Comments » 
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