実績

toori

喫茶と空間tooriにて
ソワレの2016手帳「The Dress Bridge」から
ギタリスト西村周平の音楽とともに
物語の朗読をしました。

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朗読した物語
The Dress Bridge エプロン すかたん先生

私が習字の先生をはじめることになったのは
母の影響が大きかったと思う。
母は私がまだ小さかった頃から
家の一角で地域の子ども達を集めた習字教室をやっていた。

母は生粋の京都生まれで、強烈な京都弁だった。
母は生徒の子どもたちに「私をみやびな習字の先生と呼びなさい」
と強制していたけど
子どもたちが母のことを裏で
「すかたん先生」と呼んでいることを
私は知っていた。

母は習字の授業の終わりに
一人一人の清書した半紙を
朱色の筆で添削したあと
いつも着ているエプロンの
左右のポケットに手を入れてこう聞いた。

「右、左、どっちや?」

当たるとイチゴミルクの飴が
ポケットから取り出されて渡される。
外れると母は眉をへの字に曲げて
さも残念そうに
「すかたんやったなぁ」
と言って生徒の頭を優しく撫でた。
私はその場面を遠くで眺めながら
本当は母に頭を撫でられることの方が
当たりなのではないかと今でも思う。

母のことをぼんやりと考えていた私の目の前にいま
清書した半紙が差し出され
私の鼻腔に墨汁の香りが届いた。
そして私は母から受け継いだエプロンの
二つのポケットへ手を入れるのだ。

2015-12-18 | Posted in 実績No Comments » 
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